- なぜ
- リーフチェック・プログラムのゴール/アプローチ
- 1998年結果概要/サンゴ白化と死滅
- 乱獲の結果 /乱獲の解決策
- 世界的なサンゴ白化と死滅現象/白化現象への改善策
- 報告資料.Map1〜4/国内記者発表・石垣島12/5/1998
なぜ、サンゴ礁を心配するのか?
サンゴ礁は、熱帯の海の100カ国以上に広がり、何百万の人々に社会経済的な恩意を与える貴重な天然資源です。
サンゴ礁は地球規模でも重要な生態系で、豊かな天然資源の貯蔵庫として生物多様性で優れ、食料や医薬品の源でもあり、海岸を
波の侵食から守ってくれます。多くの熱帯の島々や、観光産業にとって重要な白い砂浜はサンゴ礁生産物で、世界700万人ものスクーバ
ダイバーは、サンゴ礁の持つ美しさを求め、遥かなサンゴ礁を目指して何千マイルもの旅をするのです。
なぜ、リーフチェックなのか?
1997年以前にも、サンゴ礁衰退について多くの報道がありましたが、それは“世界のサンゴ礁の健康状態
は?”
という問いに答れるものではありませんでした。サンゴ礁に時間を割ける科学者があまりに少なく、調査ポイントも少く、長期に渡る研究も
殆ど無かった為、標準的な科学的プロセスでは答を出せなかったのです。多くの研究では、基準的な調査に重点を置き、似通った測定法を
採る事は殆どありませんでした。
1997年、HKUST/香港科学技術大学が初めて世界的なサンゴ礁調査を行いました。その調査は今まで行われたより遥かに大規模で、
各調査地間で比較できる様、すべての調査場所に於いて同一の測定法で行われました。その結果、世界の異なる地域のサンゴ礁に似かよった
問題が確認され、魚介類の乱獲は予想より遥かにひどく、特に遠隔の海域に於いてもそうである事が分かりました。
造礁サンゴ、サンゴ礁とは何か?
造礁サンゴは動物であると同時に、その組織中に生息する微小な単細胞プランクトン(褐虫藻)と共生しています。
他の動物同様、サンゴポリープは食料を捕獲して食べますが、褐虫藻は造礁サンゴに栄養化合物源をも供給するのです。これらの褐虫藻の
ために、殆どの造礁サンゴは特有の茶色がかった緑色をしています。褐虫藻からのエネルギー供給によって、造礁サンゴは炭酸カルシウムの
骨格を隠す事が出来ます。多くの造礁サンゴ骨格と死んだ骨格が長い時間をかけて融合し、サンゴ礁が形成されます。サンゴ礁は、生き物に
よって作られた地球最大の生態系なのです。
リーフチェック・プログラムのゴール
- 科学:“世界のサンゴ礁の健康状態は?”に十分な答えを出せる、サンゴ礁に対する人間活動影響の総合的評
価。
- 沿岸管理:サンゴ礁の価値、サンゴ礁健康への脅威等の解決策について、社会認識を高め、サンゴ礁の保全及
び管理に貢献するグローバル・ネットワーク構築。
アプローチ
このボランティア・プログラムは、HKUST/香港科学技術大学を基点として、インターネットで運営さ
れ、
詳細はウェブサイトに掲載されています。国内及び地域コーディネーターは、チームを組織する責任を持ち、香港での今年度地域
コーディネーターはWWFです。各チームは、経験豊かなレジャーダイバーが集まり、調査の品質管理に責任を担うプロの海洋生物学者
(60%は博士号保持者)の指示のもとトレーニングを受けて、1998年4月1日〜9月30日に行われました。トレーニングは迅速に行われ、
生物同定が正確にできる様、調査法はレジャーダイバーのため特別にデザインされました。ハタ類のような主要な“指標”生物は、
シアン化合物漁の影響を見るために使われ、チョウチョウウオ類は鑑賞魚貿易の影響を示し、イセエビなど世界共通の指標生物や、
ナポレオンフィッシュ(インド/太平洋地域)などの地域的な指標生物もあります。
1998年結果概要
1997年を上回る、35カ国以上の地域から報告が寄せられ、何百人ものダイバーと100人を超える海洋学者が、時間と労力を
費やして調査に貢献しました。リーフチェックへの支援は、科学者・政府・ダイビングクラブ・環境保護団体・及び観光業界の間に次第に
高まってきています。
1998年の調査結果は、1997年の結果を再確認するものとなりました。殆どのサンゴ礁は乱獲の影響が著しく、高価な生物が姿を
消していっています。世界共通の指標生物中、イセエビはかっては数多く生息していたのに、85%の調査地で記録されず
これは前年比4%増加です。63%の調査地でハタ類が観測されず、前年比16%も増加しました。しかし、海中公園内の
サンゴ礁では約20匹のハタ類が記録され、他の世界共通の指標生物も同様の傾向を示しました。インド/大平洋地域の指標生物
ナポレオンフイッシュは90%の調査地で記録されず、また62%の調査地で食用ナマコが記録されず、前年比23%
増加しました。シャコ貝類は53%の調査地で全く記録されず、これは前年比30%の増加でした。
造礁サンゴは、生サンゴ被度が10%以上減少して、死滅した造礁サンゴ比率が高くなっています。この変化の主な原因は、
多くのサンゴ礁やそこに生息する生物を死滅させた先例のない“サンゴ白化”現象にあり、インド/大平洋地域が最も大きな被害を
受けました。
サンゴ白化と死滅
造礁サンゴが高い温度・紫外線などの環境変化にさらされると、共生している褐虫藻を失い白くなります(白い骨格は
透明な組織を通して確認出来る)。この様なストレスの強度と期間により、造礁サンゴは回復するか死滅したりします。1998年は
エルニーニョの年であり、記録を取り始めた1860年以来の最高水温を示しました。1998年1月〜9月間SST衛星* 海水温変化観測図**は、通年季節最高温度を少
なくとも
1度以上上昇した海域黄色とオレンジの部分を示し、US・NOAAストロング
博士は、
このような海域にサンゴ白化の可能性が高いと予測しています。多くのリーフチェック調査は海水温が上昇する前に行われたものの、
それでも30%の地域である程度のサンゴ白化を記録し、特にインド洋と南ベトナムでは、造礁サンゴ死滅割合が高くなりました。
国際サンゴ礁研究協会(InternationalSociety of
ReefStudies)によれば、多くの造礁サンゴが白化し続いて死滅する非常に厳しい状況で
あると報告し、グレートバリアリーフ海中公園局(The Great Barrier Reef Marine Park
Authority)は、グレートバリアリーフ沿岸
海域サンゴ礁もダメージを受けていると報告しています。
1000年もかけて生息していたサンゴ礁が、世界の幾つかの地域で死滅していってるのです。
* SST:
seasurfacetemperature海水面温度
** NOAA.米国海洋大気庁アラン・ストロング博士承認
乱獲の結果
- 毒物やダイナマイトを使った違法漁法による高級海産物の乱獲は、1998年にはさらに悪化しました。昨年と較べ、
生物の全く観測されない“空のサンゴ礁”がかなり増えています。
- 都市から遠く離れたサンゴ礁も遠方からの漁業のため、都市に近いサンゴ礁同様ひどい状態にあります。
プラタスリーフ(東沙群島)*は台湾・中国・香港からやって来た何百隻もの漁船によるダイナ
マイトや毒物漁法により、1998年壊滅的なダメージを受けました。*香港南東約300km
トン
シャー(東沙)群島海域。
- 海産物は、誰もが相応な価格で享受できるはずの再生可能な資源です。しかし、サンゴ礁に生息する魚類や貝類の需要
は、
サンゴ礁からの供給を上回ってしまいました。漁業者の数が多すぎて、魚類や貝類が不足してしまったのです。
乱獲の解決策
- 海中公園が、周辺海域の生物種回復源としての機能を果たすには、漁業禁止の大きな面積の海中公園がさらに必要です。
プラタスリーフ(東沙群島)は、国際的海中公園の良い候補になるでしょう。
- サンゴ礁に於ける漁業の暫定的禁止は、あまり効果が見られません。香港・台湾・中国は、自国領海内で禁止している
毒物漁やダイナマイト漁などを、領海外で行うことも厳しく禁止すべきです。
- 香港は、生鮮海産物の主要輸入国です。政府は、最新の探知システムでシアン化合物の残留チェック・システムを確立
し、
シアン化合物漁獲・輸入業者を処罰すべきです。
- 全ての国は、未だ子孫を残していない幼魚や貝類の輸出入を禁止すべきです。
世界的なサンゴ白化と死滅現象
- 世界的なサンゴ礁白化と死滅現象は、海域の広がりや報告された水深、影響の深刻さに於いて史上先例のないものでし
た。
- このサンゴ白化と死滅による経済的影響は今も進行中ですが、観光産業や海産物価格は、これほどの前例がないために、
思いもよらぬ分野で長期に渡って継続するでしょう。
- 1998年は、記録に残る特別に暑い年でした。2500人の科学者からなる気候変動に関する政府間パネル
(IPCC)では、
地球規模の変化は既に計測可能との結論を出しました。過去7年間に渡って明らかに上昇傾向が見られ、気温の自然変動とエルニーニョが、
今年サンゴ礁の限界を超える所まで海水温を押し上げたのかもしれません。今月イギリスのハドレー気候センターから出された最新の
気候モデルは、50年以内に海水温は2度上昇すると予測しています。したがって、今年起こったサンゴ白化現象が
地球温暖化によるものであるないに拘わらず、サンゴ礁生態系の未来は、温暖化を逆戻りさせれなければ危機にさらされるのです。
白化現象への改善策
- 地球温暖化とサンゴ礁へのダメージは防ぐ事ができるものです。私達1人1人が、電気や自動車を効率良く使い、
エネルギーを節約する事により地球温暖化を軽減することが出来ます。
- 温室効果ガスの二大産出国であるアメリカ合衆国と中国は、京都会議で合意された5〜7%より多く放出量を減らすべき
です。
- 現存する発電所を見直し、将来的にはより効率的なものを作る必要があります。
- 自動車の燃費は、法律によって50マイル/ガロン*に
増やすべきです。 *17.6km/L
- 古くからある成長した森林の伐採を禁止し、新たな植林をすべきです。
- EU・発展途上国・アメリカ合衆国は、京都会議での合意事項の実行を回避する、排出権売買などの“柔軟な仕
組み”
を用いるべきではありません。
アメリカの環境保護団体シェラクラブによると:
“人類は史上最大の実験に取り組んでいます。つまり、私達が気候を劇的に変え
て、人間の健康や地球に
何が起こるかを見る為の実験なのです。それは地球環境における大規模な変動であり、子供達の未来で賭けをしているのです。”
リーフチェック・コーディネーターのグレゴール・ホジソン博士は、京都会議とブエノスアイレスの合意には、失望させられました。 ボートに穴が開いて沈みかけているのです。EU・アメリカ合衆国・G7諸国は、そ
の穴を詰めるのに誰が一番先に
シャツを脱ぐかで言争っているのです。
報告資料
第2回世界サンゴ礁
調査位置図
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月平均海水温変化観測図
(1998年1〜9月)
黄色とオレンジ色が
高海水温を表示
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1998年
世界サンゴ礁白化図
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1998年 統計
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国内記者発表・石垣島12/5/1998
コーラルネットワーク
*参考新聞記事
- 沖縄タイムス12/6 サンゴの乱獲、違法漁法止まらず/民間団体が調査、報告
- 琉球新報12/7夕刊 乱獲や白化現象進む/海洋生物の危機世界のリーフチェック
- 八重山毎日12/8 リーフチェックホームページ開設
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