- リーフチェック・プログラム
- 1997年結果概要
- 総評
リーフチェックのコンセプトは、各地域でリーフチェック活動に責任を持つ国内/地域/地方のコーディネーターによ
るグローバルネットワークを創る事です。コーディネーターは、資金を調達したりメディア関係のイベントを計画・準備したり、
又、トレーニングを行い、チームを率いる海洋科学者とダイバーチームを組み合わせたりします。1997年にリーフチェックは、
本部のあるHKUST/香港科学技術大学から管理面の支援を得て、98%がボランティアで、
各々のチームの旅費や宿泊費、その他のコストを賄うために全体で200万USドル以上を集めました。最も大
切なのは、
リーフチェック参加者が自分が信じる行動に大きな喜びを抱き、その過程で海に何かを返す喜びを体験する事なのです。
1997年10月16日木曜日、香港でプレスリリースされ、世界250以上のサンゴ礁の基本的な「健康」について報告さ
れました。
初めてそのような総観的な見解が可能になり、その後、多くの国々で国内向けの記者会見が行われました。その目的は、世界中の原始の
ままのサンゴ礁や劣化したサンゴ礁のサンプルをメディアに示し、リーフチェックから得られた情報を広めることでした。このようにして、
人々や社会・政府・政治指導者達に、世界のサンゴ礁の現状に注意を向ける事に成功したのです。
以下に10月16日プレスリリース内容を紹介します:
リーフチェック'97記
者発表:背景説明資料
1997年10月16日3:00pm
Institute for Environment and
Sustainable Development
Hong Kong University of Science and Technology
人類が世界のサンゴ礁に与える影響に関する、初のグローバルなサンゴ礁調査・リーフチェック'97は、国際サンゴ礁年の一環と
して行われ、その予備結果が今日出されます。調査は HKUST/香港科学技術大学*
のIESD**により組織され、1997年6月15日〜8月31日の間に、
100人もの海洋科学者と750人以上のレジャーダイバーが、30の国や地域で300ケ所のサンゴ礁を調査しました。グローバル・
コーディネーターでありサンゴ礁学者でもあるグレゴール・ホジソン博士は、
「プロジェクトは大いに必要とされていました。なぜならば、サンゴ礁は海の熱帯雨林と言われ、世界で最も価値ある天然資源の一つだからです。薬品に使われ
る何
十億ドルもの価値ある遺伝子の宝庫であり、沿岸保護の重要な因子である事や、世界700万人のレジャーダイバーを魅了する旅行資源でもあり、
数億の人々にとっては食料の源なのです。残念な事に1990年以来、レジャーダイバーから世界各地のサンゴ礁劣化情報を得ていましたが、
科学的データが不足していました。」と、説明しました。
*Hong
Kong University of Science and Technology
**Institute
for Environment and Sustainable Development
リーフチェック・プログラム
世界中で200〜300人のサンゴ礁科学者が、サンゴ礁の異なる側面を/異なる時に/異なる場所で研究しています。
従来のサンゴ礁学は、サンゴ礁への人的影響にまで追いつきませんでした。多くのサンゴ礁から同時に、人的影響に関する比較データを迅速に
集めるには、新しいアプローチが必要でした。リーフチェックでは、地域、国内、地方調整センターのグローバルネットワークを作り、
各々が責任をもって、経験豊かなレジャーダイバーチームとプロフェッショナルな海洋科学者とを組み合わせたのです。各チーム科学者は、
ダイバーに調査法をトレーニングする責任を負い、調査を引率し、データをチェックして香港本部に提出しました。
リーフチェック調査法は、サンゴ礁生態系における人的影響を見つけるために、従来の生態学的調査法とは異なり、その調査基準は
以下のとおりです。
- 最低、高校卒業学歴の経験
豊富なダイバーが、1日間でトレーニング可能にシンプルである事。
- 各チームが1日に1ケ所のサンゴ礁を調査できる事。
- 厳密な調査品質管理システムを取る事。
- 人間活動のサンゴ礁への影響に関す
る疑問に対し、科学的に有効な答えとなる結果を生みだす事。
を考慮しました。
また、調査の焦点を人的影響に絞るため、世界的かつ地域的な「指標生物」が以下に基づいて選ばれました。
1)市場価格が高い事。
2)目立った形や色で識別容易な事。
例えば、毒物使用漁法があるインド/太平洋間のナポレオンフィッシュや、甲殻類で過剰漁獲の世界的指標としてのイセエビな
ど。
選ばれた20種の高級生物に加えて、人的影響指標としての壊れたサンゴ(錨によるダメージ)や、多肉質海藻の異常発生(下水による汚染)
などが含まれました。又、大きな調査面積(800平方m)が選択され、最初は魚類、2度目は甲殻類など無脊椎類調査が行われます。
100mラインに沿った3度目の調査は、サンゴ礁の健康度を見る為に行われます。チームは、人的影響の少ないサンゴ礁を初めに調査するよう
指示されました。
1996年10月、リーフチェックは US・NOAA によって、サンゴ礁科学者のためにインター
ネットの
リストサーバーに載せられ、専門家からの批評が寄せられました。調査法は修正され、1月リーフチェックサイトに、
基準調査法/登録フォーム/チームリスト/資金調達インフォメーションが加わり、指標生物がダウンロード出来る写真も載りました。
地域や国内のコーディネーターが選ばれて配属され、チームが同定されました。多くのチームは旅費や宿泊費、ダイビング費用に資金を
調達する必要がありました。例えば、ドイツのコーディネーターは、紅海への調査旅行をTVドキュメンタリーで特集してもらい、
スポンサー獲得に成功しました。
IESDディレクター/グレゴール・ホジソン博士は言いました。 「科
学的、
教育的成果は別として、このプロジェクトは2つの理由で注目に値するの
です。第1に、そのプロジェクトは
完全にインターネットで行われ、第2に、殆どボランティアであった事です。IESDによる管理コストへの数千ドルの投資から、
そのプロジェクトは約200万USドルに値する非常に貴重な世界的データを生みだしました。私達は、その調査を可能にしてくれた何百という
寛大なスポンサーや、ボランティアの人々から恩恵を受けたのです。」
1997年結果概要
サンゴ礁の地球規模でのダメージ、特に乱獲や破壊的漁法による明確なダメージパターンを示す約230ヶ所からの調査結果
が
今日出されます。完成レポートは今年中に出されるでしょう。イセエビは、かつては世界中のサンゴ礁で豊富に生息していましたが、
その調査結果は惨めなものでした。サンゴ礁の81%で1匹も記録されなかったのです。インド/太平洋地域では、179ケ所の
サンゴ礁からたった25匹しかイセエビは見つけられず、そのうち11匹はインドネシア海中公園内にあるサンゴ礁で
記録されたものなのです。大型ハタ類は世界中で乱獲され、調査したサンゴ礁の40%では1匹も記録されず、居ても少数でした。
しかしながら、20匹以上の大型ハタがモルジブ環礁の2ヶ所で記録され、毒物漁やダイナマイト漁が行われていない紅海では3ヶ所で
記録されて、それはかってどれほど生息していたか暗示しています。カリブ海では、以前よく見られたナッソーグルーパー(大型ハタ)が、
51ヶ所中たった4ケ所で合計12匹しか見つけられませんでした。
サンゴ礁自体は、魚類や甲殻類に比べ世界的に健康な状態でした。サンゴ礁の平均被度は全体で31%あり、
カリブ海では最近の白化や病気による現象を反映してか22%の最低値を記録しました。紅海では、他の2地域に比べて死サンゴは
半分以下(3%)でした。生サンゴの死サンゴ割合は紅海が優れ、紅海のサンゴ礁が世界で最も健康であることを示しています。
わずかに良いニュースとしては、7ヶ所だけが10%以上の多肉質海藻繁茂を示し、下水汚染からの富栄養化は、「良好な」サンゴ礁の
殆どで問題ないことを表わしていました。下水による汚染は、都市部に近いサンゴ礁において重要でしょう。
インド/太平洋地域で、ナポレオンフィッシュ/サラサハタは割合豊富でしたが、調査された179のサンゴ礁の85%で
1匹も記録されませんでした。詳しく調べられたインド/太平洋間の25Kmに渡るサンゴ礁では、26匹のナポレオンフィッシュしか
見られませんでした。アジアとオーストラリアの125のサンゴ礁では、5匹サラサハタが記録されただけでした。これらの結果は
シアン化合物漁などが、豊かだった種の個体数に大きなダメージを与えた事を示しています。かっては、食用ナマコが多くのサンゴ礁周辺や
海底の至る所に居ました。調査対象3種のナマコは乱獲の証拠に、インド/太平洋間のサンゴ礁41%から全く姿を消してしまいました。
平均17個体のシャコ貝類がインド/太平洋間で記録され、しかし、紅海やオーストラリアの保護区では150〜200個体も
記録されて、かつての自然個体数がどれ程あったのか分かりました。香港では、乱獲・毒物・ダイナマイト漁法・汚染・陸域からの土砂堆
積など、あらゆるタイプの被害を受けているサンゴ礁の例が見られ、食用指標生物11種の内2種(ウズイチモンジガイ・チョウチョウウオ科)しか
記録されませんでした。かっては豊富だった種の幾つかは、現在の香港では事実上絶滅しています。
調査に加えて各チームは、それぞれの調査場所における人的影響を主観的に査定しました。それによるとサンゴ礁の 45%は
人的影響をあまり受けていないか、全く受けていないと評価されました。対照的に、記録された魚類や甲殻類
の数が
少ない事から、殆どすべての場所が乱獲によって影響を受けている事が分かります。これらの理由の1つは、漁の多くがレジャーダイバーの
居ない夜間行われるからです。ボルネオ東海岸では、サンゴ礁は未だ調査されたことがなく、全く損なわれていないと考える科学者もいました。
しかし、サラワクのリーフチェックチーム調査では、サンゴ礁の99%はダイナマイト漁法によってダメージを受けていました。
総評
グレゴール・ホジソン博士によると、これらの結果は
「海洋資源は無限ではない」事を緊急に思い起こさせるものです。食用指標生物数が少ないのは、
「サンゴ礁が地球規模で収奪されている」確かな証拠です。良いニュースとしては、適切な管理が施されている海中公園の調査結果が、
個体数が回復可能な保全の有効性を示し、多数の指標生物が幾つかの国の海洋保護区から報告された事です。
私達の目標は、海洋資源を持続可能な方法で利用する事です。持続不可能な慣行が継続すると、サンゴ礁生物の個体数は減少
し、
多くの漁師が職を失い、海産食品の多くは現在の1Kg100USドルより高くなるでしょう。国際的な環境政治が介入するかもしれません。
例えば「地球環境に優しい」ルールを通して、輸入に環境規制を始めた国もあります。シアン化合物漁法を許している国の海産食品は、
持続不可能な漁法に反対する貿易ブロックによる輸入禁止の可能性があります。世界は海洋資源を科学的に監視し管理する段階に達しました。
リーフチェックは迅速な評価手段として機能し、より詳しい科学的調査がどこで必要かを示します。毎年継続して調査する事は、管理体制が
機能しているか指標生物の個体数が回復しているかを見るのに役立つでしょう。リーフチェックとより詳しい調査の両方に基いた、毎年の
「世界のサンゴ礁状況」レポートが必要なのです。
サンゴ礁問題の解決策は、漁船の動きを国際衛星で監視する様な新しい方法と、従来からの漁業規制をより厳しくする事で
す。
リーフチェックの結果は、海洋保護区の規模や数を増やし、それが周りの海域にとっての「苗床」として役立つ、管理の必要を示しています。
更に、サンゴ礁から供給不能な需要を満たす為、水産養殖に関する調査研究が必要とされています。
教育と法律が象牙貿易に用いられた様に、ダイビング産業に価値が高い大型魚*への鮮魚需要を減らす努力が必要です。
東南アジアでは、ディナープレートより大きなリーフフィッシュ*を食べるのが「カッコイイ」事ではない教育が必要です。
資金援助機関・政治家・天然資源管理者は、将来誰もが、リーフフィッシュやイセエビが食べられる様、解決策の実施に
努める必要があるのです。
*中華料理で利用されるナポレオンフィッシュ
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